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ぬのかわ通信

ぬのかわ通信vol.7 犬の皮膚肥満細胞腫

こんにちは獣医師の布川智範です。

当院では、動物達の腫瘍治療に力を入れています。ある保険会社が出したデータでは、ペットの死亡原因の第1位は人間と同じく腫瘍でした。日々の診療の中で確かに診断する機会が多いと実感しています。ひとえに「腫瘍」といっても様々な種類がありますし、治療方法も異なります。また人と同じく、動物たちの腫瘍治療も日々進歩してきてしるので、ぬのかわ通信を通して色々とご紹介していきたいと思っています。

皮膚に最も発生する悪性腫瘍

犬の皮膚肥満細胞種

今回は犬の皮膚肥満細胞種という腫瘍についてお話します。 肥満細胞腫は文字通り、肥満細胞とよばれる血液由来の細胞が腫瘍化したものです。肥満細胞はその細胞内に様々な種類の化学物質を含む顆粒をもち、細胞が膨れているため、肥満細胞と呼ばれます。その化学物質が通常では生体内の炎症反応や免疫応答に応じて放出され、馴染み深いところ言えば、ヒスタミンを放出し、アレルギー反応の主体として働いています。
肥満細胞腫は犬の皮膚腫瘍の中で最も多い腫瘍の一つです。猫でも皮膚にできることはありますが、犬とは異なり内臓、特に腸や脾臓とよばれる臓器で発生することも多く、別の機会にご説明します。

ほとんどの例で皮膚のしこり以外に症状を認めることはありませんが、肥満細胞腫は、サイトカインと呼ばれる化学物質を放出しやすいため、吐き気や食欲不振などの胃腸障害を伴うことがあり、重篤な場合にはショックを引き起こして危険な状態となることもあります。

早期発見と検査プラン

犬の皮膚肥満細胞種

犬の肥満細胞腫は悪性腫瘍に分類され、寿命に関わることがあります。しかし、極端に悪性度が高いものを除いて、早期に適切な治療を行うと根治が望めるため、早期の発見と診断および適切な治療を行うことが大切です。

診断は細胞を採取して行います。見た目だけで診断がつくことはありません。(肥満細胞腫の疑いがある時に調べずに経過を観察することはおすすめしません)皮膚のしこり以外に何らかの症状が認められる場合には、血液検査や画像検査を実施して、全身の状態を評価します。そうすることで、肥満細胞腫から放出される化学物質の影響や腫瘍の転移がないかを調べることができます。しこりの近くのリンパ節も調べて、リンパ節転移の有無を評価します。

肥満細胞腫の悪性度はその後の治療の見通し(予後)に大きく関わります。
悪性度はグレード1-3に分類され、グレードの数字が大きいほど悪性度が高くなり、悪性度が高いグレード3の肥満細胞腫は転移が早く、適切な治療をしても、平均的な生存期間は6ヶ月という報告もあります。しかし、従来の治療に加えて最新の知見も交えた集学的治療を行うことで、格段に生活の質を保つことができます。
そのグレードを知るためには、組織検査が必要になります。組織検査を実施するタイミングは、手術で腫瘍を摘出しきれる部位である時には、治療を兼ねて行います。手術で完全摘出が困難な部位では、手術の前に腫瘍の一部分から組織検査を実施して、治療計画を慎重に検討します。

外科的な摘出

肥満細胞腫の治療は外科的な摘出が可能な場合には最も有効な手段になります。グレード3以外の肥満細胞腫で、転移を疑う所見がなく、体から腫瘍化した肥満細胞を全て取り除くことができれば根治できる可能性が十分に見込めます。そのため、外科手術を行う際は、肥満細胞腫から十分な距離(これをサージカルマージンといいます)をとって腫瘍化した肥満細胞を全て取りきれるように行います。体幹などの皮膚に余裕がある部位ではこの方法が取られます。肥満細胞腫の大きさに比べ、非常に大きな傷になってしまうのはつらいところですが、この疾患の場合にはその価値があります。
足や顔など皮膚の量から十分なサージカルマージンを取れない場合には、摘出した固まりの辺縁に腫瘍細胞が残っていることがあり外科手術だけでは治療が難しいことがあります。外科手術に代わる補助療法としては放射線治療が最も有効です。放射線療法には非常に大型の専用設備が必要なため、専門の病院をご紹介しております。関東圏には放射線装置を備えた施設が複数あるため、お住いや通院の利便性に合わせてご紹介することができます。
グレードが高い、転移が認められる、外科手術や放射線療法による局所療法が行えない場合には、化学療法が有力な補助療法になります。従来の抗がん剤に加えて新たに分子標的治療薬という選択肢も増え、腫瘍細胞の遺伝子変異を調べることで、事前にそれが有効であるかを調べることができます。

実際の症例

症例

①左膝にある肥満細胞腫(矢印)

症例

②腫瘍細胞を体に残さないため、サージカルマージンを確保する。
手術用のペンでサージカルマージンを描く。

症例

③摘出後、このままだと皮膚がよらないため、お腹側から皮膚を移動して皮膚形成する。

症例

④皮膚形成の完成

症例

⑤隣接するリンパ節を摘出し、転移の有無を評価する。

症例

⑥抜糸時の様子。傷口はこの後にさらに目立たなくなります。

肥満細胞腫は手術で完全に摘出できることはが可能であれば、長期的な予後が期待できます。完全切除が可能であるかは、発生した位置による所が大きく、皮膚がよりにくい場所ではそれが困難なこともあります。しかし、皮膚の形成術を実施することでそれが可能となります。

病理検査の結果、肥満細胞腫は完全に摘出され、リンパ節への転移がないことがわかりました。この例では補助治療の必要はありません。現在経過観察で再発や転移も認められなく、根治治療が成功しました。

まとめ

術前からの腫瘍の広がりを評価すること、手術で完全に摘出することができるか、あるいは摘出が困難な部位で補助療法が必要であることを検討しておくこと、転移がある場合に使用する化学療法、摘出した腫瘍の悪性度の評価を踏まえての治療プランなど、肥満細胞腫ではその子その子によって、適切な治療法が様々です。一つ一つご相談させていただいて、飼い主様とワンちゃんにとって最善の治療を考えていきたいと思っています。

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