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症例紹介

腫瘍科

骨肉腫からの生還〜番長闘病記~

こんにちは。副院長の池田です。

ホームページが新しくなってから初めての投稿です。(長期にわたってお休みしてしまい申し訳ありません)
今回は、当院のアイドル犬である番長(ジャーマンシェパード)の病気についてお話します。

犬の四肢の骨肉腫

当院で長らく供血犬(輸血のための血液を提供)として活躍していた番長は2013年10月に前肢の骨肉腫を患いました。大型犬の四肢にできる骨肉腫は大変悪性度が高く、無治療では四肢の骨折および激痛を起こし苦痛のうちに亡くなってしまいます。仮に手術を行って取り除いたとしても他臓器転移を高い確率で引き起こし、腫瘍の摘出のみでの生存期間中央値は5ヶ月を下回ります。また、手術方法も足ごと切り落とすのが標準治療とされ大変過酷なものです。

転移の抑制のための抗がん剤

私達もこれまでたくさんの命を助けてくれた番長がこのような重篤な病気に侵されてしまったことに途方に暮れ、そう長くはない命と覚悟しました。まずは、既に腫瘍の痛みから足をかばい始めており、このままにしてはいずれ病的骨折を待つだけになってしまうことから、2013年11月に腫瘍の摘出(前肢の断脚)に踏み切りました。この手術は無事成功し、3本足であるため若干の運動制限は必要なものの、番長は腫瘍の痛みから解放され穏やかな生活ができるようになりました。しかし、先程も触れたとおり、骨肉腫は摘出しても転移病巣が原因で亡くなってしまいます。したがって、転移が起こらないようにしなければ骨肉腫という病魔から逃れることはできません。
通常、骨肉腫の転移を抑制するためには全身療法として抗がん剤が使用されます。 従来の抗がん剤は殺細胞作用を主体とし、増殖する細胞を壊すことで有効性を示します。これまで報告されている犬の骨肉腫に対する抗がん剤の治療成績は1年生存率が40-60%、2年生存率が10-20%と報告されています。したがって、抗がん剤による治療を行ったとしても、決して今後の経過を楽観できるものではなく、従来の治療法のみでは救えないことの方が多いのが犬の骨肉腫の特徴です。

最新薬「核酸製剤」の投与

そこで、今回、私たちは番長の治療を行うに当って、従来の抗がん剤に加え、核酸製剤という最新のお薬を使用しました。核酸製剤は遺伝子に直接働きかけるお薬で、殺細胞作用ではなく、がん特有の遺伝子異常に関連した働きを示すお薬です。番長に用いた核酸製剤はがん幹細胞が発現する異常なRNAを制御し、抗がん剤が効きやすくなることでがん細胞を抑制します。正常な状態では発現していない遺伝子異常をターゲットにしているため、副作用が少ないことも期待されます。この核酸製剤は国立がん研究センターの落谷孝広先生および東京農工大学の伊藤博教授の指導のもと、2013年にようやく獣医師主導型の臨床治験に入った段階のお薬でした。その治療効果や副作用にはまだわからないことが残っていましたが、骨肉腫の従来の治療には限界があること、これまでたくさんの犬を助けてくれた番長にはもっと長生きして欲しかったことから、今回の手術に先立って、当院もこの臨床試験に組み込むことを決めました。幸いなことに番長は投与後の経過も順調で、現在まで副作用も全く見られていません。

手術から2年経過後の番長

手術から2年が過ぎた時点で、幸いなことに番長には骨肉腫の再発・転移を疑わせるものは認められていません。大型犬の1年は人の5−6年に相当することを考慮すると長期に渡って、骨肉腫の再発・転移がないことになります。この位の期間を過ごせるとがん関連死のリスクは低くなり、完治する可能性も見込めるようになります。まだまだ予断は許しませんが、今後も骨肉腫の転移がなくいつまでも元気でいて欲しいと願っています。
臨床試験薬についてはその効果がまだ不確定なものの今回の結果にスタッフ一同大変喜んでいます。供血犬としての活動は骨肉腫を患ってからは引退していますが、番長は当院のアイドルとして今日も元気な姿を見せてくれています。

※試験薬について

現在、この治験薬は臨床試験が終了しており、新たな治験プロトコルが組まれるまで使用できません。ご了承のほどよろしくお願いいたします。

永眠

番長は2016年3月15日に病院で息を引き取りました。
死因は肝臓に発生した血管肉腫という血管の悪性腫瘍によるものでした。
亡くなったあとの検査で肺にも骨肉腫の転移を確認しましたが、転移巣は一部分に限局しており、通常の骨肉腫の転移に比べ大人しい変化でした。
別の悪性腫瘍によって命を落とすことになったことは大変不憫ですが、番長は四肢の骨肉腫を発症してから2年4ヶ月もの間、私たちが期待していた以上にたくさんの時間と思い出を残してくれました。(スタッフが書いたブログも良かったら御覧ください。)
番長が残してくれた足跡を無駄にしないためにも、これからもより良い治療を探し続けていきたいと思います。