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症例紹介

腫瘍科

犬の脾臓の血管肉腫

こんにちは獣医師の布川智範です。
今回は犬で発生の多い脾臓の血管肉腫という腫瘍についてご紹介します。

Q. 血管肉腫ってどんな腫瘍ですか?

血管肉腫とは血管を形成する細胞に由来する腫瘍です。そのため、腫瘍細胞が血液に乗って転移しやすく、腫瘍の塊から出血を起こしやすいことが特長です。

Q. 血管肉腫はどんな臓器から発生しますか?

犬で最も多いのは免疫に関与したり、血液を貯蓄する脾臓とよばれる腹部の臓器から発生します。その他にも、肝臓や心臓、皮膚などからも発生することがあり、それぞれ異なる挙動や症状を示すため、以降の内容は脾臓の血管肉腫に限定してご説明させていただきます。

Q. どんな症状が出ますか?

持続的な出血によって貧血を起こし元気がなくなります。さらに、出血量が多いと血圧が下がってしまい危険なショック状態となることもあります。
また、血管肉腫では血を止める機序(止血系)に異常をきたし、出血を起こすのと同時に血が固まりやすくなり、血栓塞栓症を起こすことも知られています。このような状態を播種内血管内凝固症候群(DIC)といい、体の重要な臓器に血栓が詰まると臓器の機能が著しく低下し、治療が困難となることがあります。

Q. どのように診断しますか?

主に画像の検査でしこりを検出します。
また、各種画像検査転移の有無を調べたり貧血、止血系の評価を血液検査で行います。
しこりが各種検査で血管肉腫だと疑われる場合には細胞を採取するため細い針などを刺すと、そこから出血を起こす可能性があるため、細胞の検査は実施しないことがあります。しかし、その他の腫瘍が疑われる場合には細胞の検査を進めることもあります。

血管肉腫の確定診断は病理組織検査となるため、塊で臓器を摘出する必要があります。

超音波検査で検出された脾臓のしこり

脾臓にできるしこりのうち、2/3は悪性腫瘍であり、そのうち2/3が血管肉腫だったという報告があります。検査結果から血管肉腫や悪性腫瘍の疑いがある限り、摘出し病理検査を行わなければ血管肉腫を完全に否定できないため、脾臓の摘出をお勧めすることがあります。

正常な胸X線(左)と血管肉腫の肺転移がある胸部X線(右)
正常では黒く見える肺(矢印)の部分に白い斑点が見られます。

 

Q. どのように治療しますか?

血管肉腫の治療の第一選択は手術になります。

手術による脾臓摘出(左)と摘出した脾臓のしこり(右)。矢印で示すしこりから出血が見られます。この時点では血管肉腫かどうか判断できないため、摘出した脾臓を病理検査で調べる必要があります。

 

術前の状態を詳しく検査し、播種性血管内凝固症候群(DIC)を起こしている場合には、出血に対して輸血や血栓症に対し抗凝固薬の投与を行います。動物では血液の確保が困難な場合が多いですが、当院の献血プロジェクトの成果により、血液が必要なコに迅速に輸血が可能となりました。(献血プロジェクトについて)

それにより、状態が改善したのちに手術ができる可能性がでてきます。 転移が進行しんこうしていて手術が適応にならない場合には症状に合わせた緩和治療が行われることもあります。また転移があったとしても、血管肉腫からの出血による貧血で苦しむ時間が長いと判断される場合には、生活の質(QOL)の向上のため手術が選択されることがあります。

手術することで貧血の一時的な改善で元気を取り戻す可能性はありますが、腫瘍細胞は体の中に存在しているため、補助治療を追加で行わない場合には長期的な治療の見通し(予後)は厳しくなります。
ある過去の報告では、手術のみの生存期間は約2ヶ月、手術+抗がん剤で約6ヶ月といわれ、1年生存する犬は10%程度といわれております。それだけ進行が早く、血管肉腫は現在治療が難しい腫瘍です。しかし、血管肉腫から出血を起こす前や近隣のリンパ節に転移する前に摘出できた場合にはこれらよりも長期に生存できる可能性があります。早期の発見と治療が重要です。血管肉腫が小さなしこりの間では目に見える体調の変化はないかもしれません。定期的な検診やワンニャンドックを利用してみることをお勧めします。

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