老犬のリハビリテーション
こんにちは、看護師の三橋です。
今回は、当院のリハビリテーション科に通院されているわんちゃんの成果をご紹介致します。
さくらちゃん ラブラドールレトリバー 15才 避妊メス
リハビリを始めたきっかけ
歳を取って、足腰が弱くなった
既往症
- クッシング症候群の治療中
- 股関節形成不全
- 肘関節異形成症
- 腰仙部脊髄障害
症状
- 後ろ足がクロスしてしまう。
- 足腰が弱くなり、左後ろ足がふんばれずへたり込む。
- 歩きたがらない。首が下がった。尾が上がらない。
- 綺麗な伏せが出来ない。
体の状態
複数の関節が拘縮していて曲げ伸ばしがしにくく、後ろ足に軽い麻痺がみられる状態でした。
加齢による筋力の低下が全身的にみられました。
歩き方の特徴
- 前足の歩数が左右で違う(左一歩:右二歩)
- 後ろ足をひきずる
写真1のさくらちゃんのように、首の位置が下がるというのは老化に伴う筋力低下の典型的な症状のひとつですが、徐々に訪れる変化の為、実は毎日見ている飼い主様は気づきにくい事が多くあります。そういった変化の発見のためにも、定期的に真上や横から写真を撮る事をおすすめします。
リハビリテーション
目的
- 筋力維持・関節可動域(※)の低下防止〜改善
(※関節の生理的に運動することができる範囲(角度)) - 皮膚、筋肉のこわばりをなくす・生活環境の改善
内容
- ストレッチ(関節可動域の低下防止〜改善)
- マッサージ(皮膚、筋肉をほぐす)
- アクターを用いた立位訓練(姿勢矯正・筋力トレーニング)
ストレッチやマッサージは、慣れていないと嫌がってしまうため、少しずつ無理のないところから始めます。さくらちゃんは幸い人に触られるのが大好きで、初回からとてもリラックスして気持ち良さそうに受けてくれました。
後ろ足の弱ったわんちゃんの場合、後ろ足のケアだけでなく、前足もしっかりマッサージを行うようにします。後ろ足に力が入らないと、前足で体を支えようとします。〔写真1〕のように、前傾姿勢を取るわんちゃんは、体重の大部分が前足にかかってしまいます。
アクター(犬用 体重免荷起立歩行装置〔写真3〕)を用いた立位訓練では、コルセットを着用して釣具で固定することにより、体重の負荷を軽減させながら、正しい姿勢での筋力トレーニングを行う事ができます。このように体重を支えてあげる事で、体重が各足に分散し、首を持ち上げるトレーニングが可能になります。
〔写真4〕徐々に加える負荷を大きくしたり、リハビリグッズと組み合わせたりすることでより筋力・体力アップも期待できます。
〔写真5〕さくらちゃんの場合は、大好きなおやつをご褒美にしながら、坂道を登るトレーニングを続けました。
自宅ではストレッチ、マッサージ、神経の反応・反射を誘発するトレーニングを実施しました。
歩き方の変化
開始から30日で歩幅が大きくなり、立った姿勢での腰の高さが高くなりました。
また、肩まわり・膝の筋肉がほぐれ、関節可動域も劇的に改善しました。
42日では歩様に大きな変化が見られました。歩幅は大きく、歩くスピードは劇的に早くなりました。また、前足の歩数においては劇的な改善が認めら、一歩ずつ足を送り出す事ができるようになりました。リハビリ室内のヨガマット上ではよく歩き、どんなに歩いても以前のように腰から落ちてへたり込む事はなくなりました!
60日後の歩様がこちらです(動画になっています)
まだ首の高さは大きな改善までは見られませんが、さくらちゃんのリハビリへのやる気は回数を重ねる毎に増していて、大好きなおやつを見つめるときは一生懸命首をあげてくれます。
老犬(高齢期)のリハビリテーション
“リハビリテーション”というと、疾患や術後のケアが多くイメージされがちですが、さくらちゃんのように加齢に伴う筋力の低下や関節の拘縮など、いわゆる「足腰が弱くなった」といわれるような、自然に訪れる”衰え”に対しても非常に有効です。
もちろん、「若いころと全く同じ」という事は困難ですが、「老化をゆっくりにする」「残っている機能を出来る限り回復・維持する」事で、「健康寿命」を飛躍的に伸ばす事ができ、生活の質を大きく向上させる事ができます。
老犬にとって自分の意志のままにやりたいことができる、意思表示ができるという事は、
肉体的にも精神的にも楽しい老後生活にとって非常に大事なポイントです。
「歳だからしょうがない」とひとくくりにせず、1日でも長く自分の足で歩けるように、是非リハビリテーションにチャレンジしてみましょう!
(自宅でできるマッサージや、快適な過ごし方などはシニア教室でもお伝えしていますので、ぜひご活用ください)