老犬のリハビリテーションⅡ(マッサージ・ストレッチ療法)
こんにちは、看護師の三橋です。
今回は、当院のリハビリテーション科に通院されているわんちゃんの中から、マッサージ・ストレッチ療法で著しい改善が見られた症例のご紹介です。
チビタくん トイプードル 18歳 去勢雄
症状
身体的症状
- 歩行困難(歩幅が狭い・可能距離が短い・段差を超える事が困難)
- 前足と後ろ足がもつれる
- ふんばりが効かずふらつく、尻もちをつく
- 四肢の先端が冷たい
外貌的所見
- 首の位置が低い
- 背中が弓上に曲がる(背湾)
- 前足と後ろ足が、共に中央に寄っている
- 膝が伸びず、腰の位置が低い
体の状態
加齢による著しい筋力の低下と関節の拘縮による筋肉のこわばりが強くみられました。また、事前の診察において神経障害は認められませんでした。
ストレッチ・マッサージ療法
目的
- 関節可動域(※)の低下防止〜改善(※関節の生理的に運動することができる範囲(角度))
- 皮膚、筋肉のこわばりをなくす
- リラックス効果
- 新陳代謝、血液循環、消化管運動の促進
内容
- ストレッチ(受動的な可動域運動):関節可動域の低下防止〜改善
- マッサージ:皮膚、筋肉をほぐす
ストレッチは、肩関節/肘関節/手根関節/股関節/膝関節/足根関節/指にそれぞれ実施します。
チビタちゃんは加齢性の筋力の低下や関節の拘縮とともに、関節可動域の低下がみられました。
マッサージでは、まず全身の筋肉のこわばりの程度を調べます。
チビタちゃんは、後ろ足が弱くなった事で前足に負荷がかかっていたため、首・肩周りに特に強いこわばりがみられました。
手技:ストローク/スキンローリング/フリクション/バタフライ/ニーディング/パーカッション
チビタちゃんは、とても気持ちよさそうにリラックスしてくれました。
マッサージにはリラックス効果もあります。
また、体の力を抜いてくれることで更にマッサージの効果が現れやすくなります。
効果
マッサージ直後
45分の施術後の写真です。マッサージ直後から明らかな改善がみられました。
施術後の外貌的所見
- 首の位置が上がった
- 膝が伸び、腰の位置が高くなった
- 前足と後ろ足の間隔が広くなった
自宅での様子
施術後の自宅での様子です(オーナー様より)
- 食欲が増し、食べられる量が増えた
- 今まで通れなかった障害物をくぐって通れた
- 今まで昇り降りできない事が多かった段差を行き来できた
- 身体が以前よりも温かくなった
- 身体をブルブルと振らすときに踏ん張れるようになった
7日後
7日後では、首の位置や腰の位置が低くなってきてはいるものの、初回の施術前よりも高い位置で維持できていました。
この状態から同様の施術をした後の写真です。
やはり首の高さ・膝の伸び・前後の足の間隔などの姿勢の改善がみられます。
老犬(高齢期)のマッサージ療法
このように神経障害が認められない老犬でのリハビリテーションの施術は、大きく分けて”筋肉や関節のコンディションを整える”ものと、“筋力トレーニング”があります。
老犬の場合には、加齢による著しい筋力の低下や、運動機能の低下、心疾患・呼吸器疾患などの併発による運動制限などにより“筋力トレーニング”の実施が困難であることも多いです。
ですが、マッサージやストレッチ、時には電気刺激療法や温熱療法を用いた“筋肉や関節のコンディションを整える”運動はほとんどの症例において適応であり、効果を期待できます。(施術を避けるべき状態や疾患もあります)
リハビリテーションによる生活の質の改善や健康寿命の延長はもちろん、オーナーとのコミュニケーションやリラックス効果によるやすらぎも、老犬にとっては重要なものです。
「リハビリテーション=運動」というイメージが先行しがちですが、年齢や体調に合わせた運動以外のリハビリテーションも可能です。
「始めるにはもう遅すぎる」とお考えの方も、是非一度ご相談ください。
※マッサージはきちんと身体の状態を確認したうえで、正しい手技で実施することが重要です。通院でのリハビリだけでなく、リハビリ科やシニア教室でマッサージ手技のレクチャーも行っておりますのでご相談ください。