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ぬのかわ通信

ぬのかわ通信vol.4 〜肝細胞癌〜

こんにちは。副院長の池田です。
春になり戸塚周辺の桜も満開ですね。週末にお花見をされた方も多いのではないでしょうか。


今回のテーマは肝細胞癌です。なるべくわかり易くしようと努力したのですが、今回は医療用語が多くやや読み難いかもしれません(おまけに長いです)。ご容赦ください。

肝臓に発生する悪性腫瘍には肝細胞癌、胆管細胞癌、カルチノイド(神経内分泌腫瘍)、肉腫(血管肉腫、平滑筋肉腫など)、転移性腫瘍があります。腫瘍は元になる細胞によって特徴が異なるため、同じ臓器の腫瘍でも由来する細胞によって治療や今後の経過(予後)が変わります。したがって、各細胞の特徴に合った治療を選択するのが効果的です。


腫瘍の治療には外科療法、化学療法、放射線療法(以上3つは腫瘍の3大療法と呼ばれます)、免疫療法、温熱療法、分子標的療法など様々なものがあります。そのため、治療方法の選択は多岐に渡って、どれがベストの治療方法かわかりにくいのですが、腫瘍の治療は本質的にはとてもシンプルです。それは「腫瘍細胞を体から全て取り除き、その状態を継続すること」であり、この結果治癒が望めます。本質的にはシンプルな腫瘍の治療ですが、それでも悪性腫瘍の治療はやはり困難であり、その理由は腫瘍細胞が生体にとって重要な機能を持つ各種臓器から発生していることにあります。
したがって、腫瘍を治療する際は以下の順番で検討していく必要があります。①根治治療:完全に取り除くことができるか(この点については外科手術が最も有効です)、②緩和治療:完全に取り除くことが出来ない(生体機能の維持に支障が生じる)のであれば生体機能とのバランスを見極めながら腫瘍細胞を減らすことができないか(各種治療が該当します)、③終末期治療:腫瘍細胞を減らすこと自体が生体機能に重篤な影響を及ぼす場合にはどのように疾患と折り合いを付けていくか、という順番で検討します。この考え方はとても大切で、この部分を曖昧にすると治療効果が少ないのに体への負担が大きい治療を実施したり、その逆に体の負担よりも治療効果が期待できるのに治癒の機会を逃してしまったりという結果を招いてしまいます。


肝臓に発生する腫瘍のうち、今回テーマに挙げた肝細胞癌は転移が発生しにくいという特徴をもっています。そのため、一旦体からすべて取り除くことができればその後の予後は比較的良好です(外科的に切除可能な場合の中央生存期間は1460日以上に対して手術しない場合の中央生存期間は270日と報告されています)。肝細胞癌は完治が望める数少ない悪性腫瘍であり、癌だからといってすぐに治療を諦める必要はなく、まずは外科的に全て取り除くことが可能かどうかを検討します。


肝細胞癌は、病巣の広がり方によって結節型、塊状型、び漫型に分けられます。結節型やび漫型の肝細胞癌は肝臓全体に広がっていることが多く、残念ながら完全に取り除くことはできません(肝移植の技術は未だ獣医領域では確立されていません)。しかし、一部に限局するタイプである塊状型のものであれば外科的に全て取り除くことが可能であり、幸いなことに犬の肝細胞癌ではこのタイプが最も多いものになります。


肝臓腫瘍は小さいうちは症状を示すことが少なく、肋骨に囲まれているため、少し大きくなった程度では外から見たり、触ったりしても気づくことはできません。したがって、ある程度大きくなってから発見されることが多く、一部に限局しているものでもそのサイズ、解剖学的な部位(肝臓は重要な血管に接しています)によって手術の難易度が大きく変わります。近年、高度な検査機器の開発(ヘリカルCT:当院には設備がありませんが提携している病院で実施可能です)、様々な医療デバイス(ベッセルシーリングシステム、超音波凝固切開装置、超音波吸引装置など)の導入、手術手技の改善(メルセデス切開、プリングル法など)により、以前は手術不可能と判断され、緩和的手段しか取れなかったものにも光明が見られるようになりました。


次に挙げる患者さんの肝臓腫瘍は、そのサイズが大きかったり、大きな血管のそばにあったりするために一般的にはやや難易度が高く施設によっては手術不適応とされることもあるものでしたが、当院で無事手術により取り除くことができました。摘出後の病理診断では、両方とも肝細胞癌と診断され、完全摘出により術後の経過も順調です。塊状型の肝細胞癌は摘出出来ればその後の経過が良いのですが、術中死亡率は一般的に5%と比較的高いものになります(20例に1例亡くなる計算です)。手術に踏み切るには大変な勇気が必要ですし、その決断をされた飼主様とわんちゃんの勇気には心から敬服致します。その期待に応えることができ、笑顔が戻った時は本当にこの仕事をしていて良かったと感じる瞬間です。手術に限らず腫瘍の治療では、悲しい結末を迎えることも多いのですが、さらに修練を積んでこの笑顔をもっと見られるようにしていきたいと思います。

肝臓の外側右葉に発生した塊状型肝細胞癌
手術写真(クリックすると開きます;苦手な方は控えてください)
肝臓の外側左葉に発生した塊状型肝細胞癌
手術写真(クリックすると開きます;苦手な方は控えてください)

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