犬の白内障
こんにちは、獣医師の髙木です。
今回は皆様に犬の白内障についてご紹介します。
犬の白内障はどうして起こる?
白内障とは、本来透明な水晶体が混濁した状態を指します。白内障が起こるメカニズムは完全に解明されていませんが、遺伝や糖尿病などの様々な原因により水晶体を構成する蛋白質が変化し、水晶体が白く濁ってしまいます。
高齢からの発症が多いですが、全ての年齢で発症します。進行は遺伝性・糖尿病性・外傷性の白内障で早いと言われています。
白内障自体に痛みはありませんが、合併症や続発症によっては痛みを生じます。
犬の白内障の分類方法は様々
犬の白内障には主に4つの分類方法があります。
1.原因による分類
- 遺伝性
- 続発性:加齢、外傷、薬物・中毒、炎症等にともなうもの、また糖尿病等の全身性疾患や白内障以外の先天的な要因に続いて発症するもの
2.年齢による分類
- 先天性:生まれつき発症しているもの
- 若齢性:5歳までに発症するもの
- 高齢性:6歳以上で発症するもの
3.白内障の部位による分類
水晶体の濁っている部位により分類します
- 水晶体嚢
- 皮質:よく見られる白内障です
- 核:先天的な発症で最も多い部位です
4.病期による分類
- 過熟期:水晶体の蛋白質が液状化し、溶け出した状態
水晶体の蛋白質が溶け出すので、水晶体の厚みが減ります。水晶体の蛋白質が抗原となって、ぶどう膜炎を発症させることがあります。また、ぶどう膜炎から緑内障を発症することもあるので、注意が必要です。
白内障を発症しやすい犬種
特に白内障を発症しやすい犬種では、定期的な目の検査をおすすめします
好発犬種 | |
トイ・プードル | ミニチュア・ダックスフンド |
柴犬 | アメリカン・コッカー・スパニエル |
シー・ズー | ミニチュア・シュナウザー |
ヨークシャーテリア | キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル |
パピヨン | チワワ |
犬の白内障の診察と治療
検査内容
視覚検査・眼圧検査・検眼鏡検査・超音波検査等を行い、白内障の分類、視覚・続発症の有無などを調べます。
→目の検査については眼科のページをご覧ください
※よく間違われてしまう病気!核硬化症との違い
水晶体は生涯を通じて水晶体繊維を産生しますが、水晶体の大きさは変化しません。そのため、加齢に従って水晶体繊維が水晶体の中心部へ向かって圧縮され、硬化していきます。この状態を核硬化症と呼びます。核硬化症は、正常な水晶体繊維の増加なので、光を通し、視覚を維持することができます。核硬化症のみであれば治療は特に必要ありません。
治療について
外科治療
全身麻酔下で水晶体の混濁を取り除く手術を行います。視覚の維持あるいは回復、または白内障に伴う続発症の発症リスクを下げることを目的としているため、白内障手術は必ず行わなければならない手術ではありません。
ご希望の場合は、白内障手術が行える病院をご紹介致します。
内科治療
外科的治療後に並行して行うだけでなく、手術が難しい場合(全身麻酔に耐えられない全身状態等)や網膜機能の改善が難しい場合は内科治療のみを行うことがあります。主な内科の治療目的は2つで、①白内障の進行に伴う続発症に対する予防治療・対症療法 ②進行遅延を目的とした点眼治療となります。
犬の白内障の予後:白内障がたどる経過と結末について
白内障が進行すると、光が網膜まで届かなくなるため、眼が見えなくなります。さらに、ぶどう膜炎・緑内障・網膜剥離・水晶体変異(水晶体の位置がずれること)等の続発症を起こすことがあります。これらの続発症は網膜や視神経にダメージを与えるため、白内障の手術を受けても視覚が戻らないことがあります。
白内障の手術を行なった場合も、ぶどう膜炎・緑内障・網膜剥離などの合併症が起こることがありますが、これらの発症リスクは手術をしなかった場合に比べ著しく低下すると言われています。
正常な眼の場合 | |
白内障の場合 白内障があると、水晶体は光を遮断してしまい、物が見えない |
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網膜・視神経がダメージを受けている場合 白内障の手術を受けると、光は水晶体を通過できるようになるが、網膜が障害を受けていると、光は網膜で認識されないため物は見えない |
症例紹介:当院で治療した白内障症例の経過
<白内障から水晶体脱臼・ぶどう膜炎・緑内障を続発した症例>
- ミニチュア・ダックスフンド
- 13歳
- 症状:昨日から右眼をしょぼしょぼさせる
検査結果
・右眼
(右眼全体) | (右眼スリット検査) |
結膜が赤く腫れ、充血も見られます。角膜は浮腫(青白く濁っている)を起こしています。スリット光という細い光の線を眼表面に当てると、水晶体全域が白濁し、前に脱臼して(赤矢印)角膜のライン(黄矢印)と触れている様子も分かります。眼圧検査では、軽度の眼圧上昇を認めました。
・左眼
(左目全体) | (左目スリット検査) |
水晶体が一部濁っているのみで、右眼に見られたような症状はありませんでした。スリット検査の画像でも脱臼していない様子が分かります。
診断
・右眼:成熟白内障、水晶体前方脱臼、ぶどう膜炎、緑内障
・左眼:未熟白内障
治療内容と経過
右眼にのみ炎症止めとヒアルロン酸の点眼を行なったところ、右眼の結膜の腫れ、充血がなくなりました。
角膜の青白さも消え、水晶体もある程度確認できるようになっています。