犬の喉頭麻痺
こんにちは、獣医師の布川智範です。
本日は犬で呼吸困難を引き起こす「喉頭麻痺」という病気を紹介いたします。
左のレントゲン写真は犬の呼吸器の3区分(上部気道・中枢気道・末梢気道)を示しており、上部気道は鼻から喉までで、中枢気道は気管から気管支まで、末梢気道は細い気管支から肺までの区画になっています。
呼吸のトラブルではまずどこの区画にトラブルがあるかを鑑別していく必要があり、上部気道のトラブルでは異常な呼吸の音とともに、苦しそうな状態に陥いるのが特徴です。喉頭麻痺は喉頭が神経のトラブルから閉塞してしまう疾患のため、異常な呼吸音とともに呼吸が苦しくなります。また、呼吸がうまくできないと体内の熱が拡散できなくなるために熱中症を引き起こすことや、呼吸困難から肺障害も合併することがあります。
犬の正常な喉頭の図
息を吸う時(吸気時)に喉頭の被裂軟骨は外側に開き、空気の通り道である声門を拡げます。
各種検査所見
特徴的な吸気時の高調音から喉頭麻痺を疑います。
レントゲン検査で他の気道に異常がないことやレントゲン透視検査で喉頭の異常な動きを確認します。
喉頭麻痺による閉塞で息を吸う時に喉頭が後ろに変位している。
症状や画像検査から喉頭麻痺が疑われる場合、確定診断に喉頭鏡検査を実施します。
浅い麻酔下で喉頭の動き肉眼的に観察し、喉頭麻痺に一致するような吸気時に被裂軟骨の運動が認めれれない、また逆に声門を閉塞するなどの所見があれな喉頭麻痺と確定診断いたします。
喉頭麻痺の喉頭の内視鏡所見。呼吸に合わせた被裂軟骨の動きが認められない。
治療
内科治療:酸素投与、熱中症の管理(冷却)、呼吸を安定化させるために鎮静剤の投与、喉頭の浮腫を軽減する目的で消炎剤の投与などを行います。喉頭麻痺を根治できる薬はないため、状態が安定して確定診断に至れば外科手術を検討します。
外科治療:喉頭麻痺の外科手術の方法にはいくつか種類がありますが、現在第1選択となっているのは被裂軟骨側方化術とよばれるものになります。狭くなった声門を拡げるのに、被裂軟骨をずらして固定を行います。手術による呼吸の改善は90%の症例で認められます。合併症は喉の動きが悪くなるため、誤嚥性肺炎が最も多く、10-20%の症例でそれが起こるという報告があります。
左:手術前の喉頭 右:手術後の喉頭 声門が拡がっているのがわかります。
最後に
喉頭麻痺の症例では呼吸が苦しくなってしまい、熱中症や肺障害といった重篤な合併症を発症します。そのため早期の診断と治療が重要となります。当院では喉頭麻痺の治療に力を入れていますので、ご相談がありましたら呼吸器科の受診をお勧めしています。