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症例紹介

眼科

犬の緑内障

こんにちは、獣医師の髙木です。
今回は皆様に犬の緑内障についてご紹介します。

 

緑内障とは?

緑内障とは眼圧(眼球の内圧)上昇が原因となって生じる視神経や網膜の障害によって、視覚に障害をきたす疾患です。
眼圧は房水(※)が眼の中を循環することで一定に保たれていますが、房水の流出路が障害されると緑内障を生じます。

※房水は、毛様体(図1の)の一部で産生される液体です。
分泌された房水は水晶体の前を通過し、隅角(図1の付近で、角膜・虹彩・毛様体・強膜で構成される部位:流出路)から排泄されます。
「水道の蛇口」が房水を産生する毛様体の一部、「水槽」が眼の中、「排水溝」が隅角とイメージすると分かりやすいです。


(図1:正常な眼の房水の流れ)

 

 

緑内障の分類

緑内障の分類方法は大きく分けて2つあります。
 

1.原因による分類
    • 先天性緑内障
      生まれつきの眼の奇形によるもので、3〜6ヶ月齢で眼圧が上昇します。犬ではまれです。

 

    • 原発性緑内障
      隅角の形態に問題があって眼圧が上昇している事が多く、遺伝性が疑われます。両眼同時に発症する事もありますが、片眼だけ発症する事もあります。その場合、遅れてもう片方の眼も発症する事があります。

 

    • 続発性緑内障
      併発している緑内障とは別の眼疾患により、二次的に眼圧が上昇しているものです。併発疾患として多いものは、水晶体前方脱臼・白内障・ぶどう膜炎・眼内腫瘍・網膜剥離などが挙げられます。

 

2.病態による分類
    • 急性期
      眼圧が上昇してから48時間以内のステージです。視神経・網膜の障害が少なく、視覚の回復・維持が見込める状態です。視覚を維持するために早い段階での治療が必要になります。

 

    • 亜急性期
      急性期を過ぎた状態ですが、まだ視覚の回復が見込めるステージです。急性期と同じく、早期に治療を行うことで、視覚を回復・維持できる可能性があります。

 

    • 慢性期
      眼圧上昇から時間が経過し、視神経・網膜が圧迫され続けているステージです。そのため、視覚に障害が出ているか・既に視覚を喪失してしまっていて、視覚の回復・維持は見込めません。このステージまで進行していると、眼球が大きくなっていることが多いです。
      治療は痛みの軽減や外観の維持が目的となります。

 

原発性・続発性緑内障を発症しやすい犬種

  • 原発性緑内障
好発犬種
柴犬 アメリカン・コッカー・スパニエル
シー・ズー トイ・プードル
ゴールデン・レトリバー ビーグル
チワワ パピヨン など

 

  •  続発性緑内障
    どの犬種でも発症する可能性があります
     

緑内障の検査と治療

検査について

視診・眼圧検査・検眼鏡検査・スリット検査・隅角鏡検査・眼底検査・眼の超音波検査などを行います。
→目の検査については眼科のページをご覧ください

 

治療について

外科治療

1. 急性期で視覚の回復を見込める場合や上昇した眼圧を下げる場合
前房穿刺、前房シャント術、毛様体凝固術

2. 視覚がない場合で緑内障による疼痛除去を目的として行う場合
硝子体内ゲンタマイシン注入術、シリコンインプラント(義眼)挿入術、眼球摘出術

 

内科治療

視覚の回復・眼圧を下げることを目的として行います。
薬剤の種類は点眼剤が主ですが、点眼を使用しても眼圧が下がらない場合、高浸透圧利尿剤の点滴による治療を行うこともあります。

点眼剤の作用で分類すると、2種類に分類されます。

1. 房水の産生を抑制する点眼
 先ほどの水道で例えると、水道の蛇口を閉めて、水が出る量を減らします。

2. 房水の排出を促進する点眼
 先ほどの水道で例えると、排水溝を大きくして、水が多く出ていくようにします。

 

犬の緑内障の予後:緑内障がたどる経過と結末について

眼圧が高い状態が続くと網膜・視神経が圧迫され、回復できないほどのダメージを受けてしまい、永久的に眼が見えなくなります。(図2)

また、眼圧の上昇は痛みを伴うことも多いです。早期に眼圧を下げる治療を行うことが、視覚温存だけでなく痛みの軽減にもつながります。緑内障の原因にもよりますが、緑内障は進行性で完治が難しいことが多く、生涯つきあっていく必要がある疾患です。


(図2:眼圧上昇により網膜・視神経()が圧迫される)

 

 

症例紹介:当院で治療した緑内障症例の経過

<眼内腫瘍により続発性緑内障を起こした犬の症例>

  • アメリカン・コッカー・スパニエル
  • 12歳
  • 症状:右目が赤い
検査結果
  • 視診
(外貌) (右眼全体) (左眼全体)

右眼の軽度拡大・充血・水晶体の白濁を認めました。
また、強膜の一部が黒く盛り上がっていました()。 

  • エコー(超音波)検査
(右眼)

右眼の毛様体付近に6.4×6.7mmの腫瘤()を認め、眼球のサイズも右眼は軽度に拡大していることが分かりました。

  • 眼圧検査

右眼の眼圧が上昇していました。

 

診断

眼圧上昇の原因として、
①眼の中に出来た腫瘤により房水の流れが障害され、房水が正常に排泄されなくなった(図3)
②白内障から水晶体起因性ぶどう膜炎を起こした

のどちらか、あるいは①②の併発が疑われました。


(図3)

 

右眼:過熟白内障、眼内腫瘍、水晶体起因性ぶどう膜炎による続発性緑内障
左眼:未熟白内障

 

治療内容と経過

右眼の眼球摘出術を行いました。
病理検査結果は「悪性黒色腫(malignant melanoma、メラノーマ)」で、腫瘍が一部強膜まで浸潤していたとのことでした。現在のところ腫瘍の転移・再発は認めていません。

本症例の場合、右眼は摘出したため、右眼の視覚の温存はできませんでした。
しかし、術前に左眼の視覚があることは確認できていたため、現在も自宅での生活やお散歩などに大きな影響を与えることなく過ごすことができています。